手術

学生時代に友人Ａと一緒に温泉旅行する事になった。
雑誌を見ながらどこに泊るかＡと相談し、
あれこれ悩んだ末にやっとある宿に決めて予約した。
さて、後は出掛けるだけと思っていた旅行の前日、
Ａの母親からＡが事故に遭ったと聞かされた。
自分は慌てて教えられた病院にかけつけると、
Ａの両親からＡは今現在手術中なのだと教えられた。
せめて手術が無事に終わるまでここで待とうと、
そのまま自分は携帯の電源を切り、Ａの両親が座っていたベンチに並んで腰を掛けた。

一時間……二時間……三時間
それだけの時間が過ぎても、まだ手術中のランプは着いたままだった。
難しい手術なのだろうか？
それほどの怪我なのだろうか？
そんな考えが自分の頭の中でぐるぐると回り続ける。
本当ならば旅行に出かけて一緒に楽しむ筈だったのに、
そう思うと悲しくなって涙が浮かびそうになった。
自然と俯くようになっていた自分の耳に、突然携帯の着信音が響いてきた。
こんな時に誰がと思いながら携帯の表示を見ると、非通知となっていた。
自分はＡの両親のいるベンチから足早に離れ、電話に出た。
「もしもし？」
「もしもし、Ａ様はまだこちらにお出でになりませんでしょうか？」
その言葉に自分は、宿を予約したままだったのを思い出した。
「すみません……Ａはそちらには行けなくなりました」
「そうですか……それはとても残念で す」
電話の相手は溜息を交じりにそう言って電話を切った。
自分はノロノロと携帯をしまいながらベンチに戻ると、
そこではＡの両親と手術をしていた医者が話をしていた 。
「あ、あのっ！ 手術はっ！？」
慌ててそう訊ねる自分に、医者は疲れが残る顔に笑みを浮かべて頷いた。
「大丈夫、手術は成功しました」
その言葉を聞いて自分は安堵のあまり、そのまま座りこんでしまった。
良かった……本当に良かった。
Ａが無事に退院できたのならば、今度こそ楽しみにしていた旅行に
二人で出掛けようと、心に誓ったのであった。

携帯、電源切ってたのにね。

非通知着信きたんだね。

旅行はＡと二人で行くのにね。

「Ａはまだ来ないのか」だって。

Ａだけじゃないのに！

Ａだけに用事の電話？

Ａだけ。



ああ、そっか、電話、あの世からか。